バナナの知られざるストーリー
バナナの立役者たち
昭和16(1941)年、東京都生まれ。昭和35(1960)年、山の上ホテルに入社。ウェイターとして文芸作家や俳優など著名人への料理・飲み物等のサービスにあたる。転籍後も、天皇・皇后両陛下や各界著名人の接遇サービスに携わる。テーブルマナーの指導にも尽力し、国家検定「レストランサービス技能検定」の運営に当たってきた。平成20年、(株)M&Sサービスパートナーズを設立し、接客サービスの実務指導などを行う。1級レストランサービス技能士、HRS認定テーブルマナー講師の資格を持ち、東洋大学国際地域学部国際観光科非常勤講師を務める。
皮を手で簡単にむけて手軽に食べられるバナナですが、
戦後間もない頃は、バナナはナイフとフォークを使って食されることもありました。
当時、バナナは非常に貴重で、一般の消費者が口にすることはほとんどなく、
フォーマルな会食の席など、限定されたシチュエーションでのみ提供されていた果物だったのです。
そのような状況でしたから、「貴重なものを大事に食べよう」という発想が生まれて、
ナイフとフォークを使ったていねいな食べ方が考案されたのではないでしょうか。
また、昭和29(1954)年ごろからの高度経済成長にともない、
「マナーを身につけよう」という動きが国内で高まったことも、
ナイフとフォークを使ったバナナの「正しい食べ方」が普及したことに一役買ったと考えられます。
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- 真ん中に切れ目を入れてから、ナイフとフォークを使って皮をはぐ。
実際にやってみると意外と難しい
- 真ん中に切れ目を入れてから、ナイフとフォークを使って皮をはぐ。
「マナーを身につけよう」という考えが広まったことから、
バナナに限らず、「テーブルマナー」そのものが広く認知されるようになりました。
ホテル学校の先がけであるYMCAの専門学校や、
御茶ノ水の学生会館でテーブルマナーのクラスが開講されたこともありました。
それらの講座では、フルコース料理の実技を教える際に、
デザートとしてバナナが出されることが多かったと聞いています。
有名な食材でありながら安く手に入れることができると同時に、
ナイフとフォークの使い方を学びやすい教材として、バナナは最適だったのだと思います。
テーブルマナーの講座でバナナが取り上げられていたのと同じような理由で、
国家検定である「レストランサービス技能検定」の1級の試験には、
現在でも課題の一つとしてバナナフランベの調理とサービスの実技が採用されています。
バナナフランベとは、バナナをバターと黒砂糖で焼き、
仕上げに注いだダークラムに火をつけ、フランベして作るデザートです。
平成5(1993)年頃までレストランでは、お客様のテーブルの脇で黒服、
いわゆるマネージャーによるデモンストレーションがさかんに行われていました。
ステーキを焼いたり、クレープシュゼットをつくったりという、
味だけではなく視覚でも食事を楽しんでいただこうという演出だったのですね。
その一つとして、燃え上がる炎が華やかでインパクトのあるバナナフランベは人気がありました。
レストラン側としても、原価率が良く、また一年を通して手に入りやすい食材でしたので、
安定してお客様に供給することができたのです。
客席でのデモンストレーションは、流行が収束してあまり見られなくなりましたが、
4、5年前から再び注目されるようになりました。流行というのは不思議なもので、
華やかなもののあとは静かなものになり、それが飽きられると再び華やかなものが求められるようになるものなのですね。
ですから近年、ホテルのメニューには客席でのデモンストレーションが再び取り入れられるようになっているのです。
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- 自宅でチャレンジする際は、家庭用のフライパンでOK
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- バナナの両面に焼き色がついたらダークラムを注ぐ。
華麗に炎があがり、甘い香りが広がる
- バナナの両面に焼き色がついたらダークラムを注ぐ。
バナナは手軽で庶民的な果物ですが、バナナフランベのほかにも、
カットしたバナナをヨーグルトに混ぜたり、パフェに添えたりといった簡単なアレンジで、
料理やデザートを華やかにすることができます。
バナナが加わるだけで、ぐっと素晴らしいものに変わるんですね。
ナイフやフォークを使って食べるマナーは、挑戦してみると意外と難しいものです。
でも、バナナ1本をいつもよりていねいに扱って味わうことで、
手で剥いて食べるのとは少し違った味わいを楽しめると思います。
ぜひ一度、ご家庭でお試しいただいてはいかがでしょうか。
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- ホテルのメニューなどにも登場するバナナフランベ。
バナナの甘さとラムの風味がベストマッチ
- ホテルのメニューなどにも登場するバナナフランベ。
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