Dole

1本のバナナに想う、企業として、個人として、食をめぐる課題に向き合うことの大切さ

フィリピンで生産されているDoleのバナナ。日本の港に到着したバナナの行き先は、実はスーパーや青果店だけではありません。生産地であるフィリピンと消費地である日本、その間をつなぐDoleが担う役割とは? 「食」を切り口に社会が抱える課題について研究するお二人に話を聞いてみました。

この方々にお話しいただきました
赤嶺教授プロフィール

赤嶺 淳(あかみね じゅん)一橋大学 社会学研究科 社会学部 教授

1967年生まれ。青山学院大学文学部・大学院研究科博士課程修了後、1996年、フィリピン大学大学院・人文学研究科博士課程を修了。名古屋市立大学の大学院教員を経て、2014年から現職。主要研究領域は、東南アジア研究、食生活誌学、フィールドワーク教育論。著作に『ナマコを歩く』、『バナナが高かったころ』、『鯨を生きる』など。

 

赤嶺ゼミ所属・浅野さん

浅野 沙恵(あさの さえ)一橋大学 社会学部 4年生

2001年生まれ。2021年、一橋大学社会学部に入学。赤嶺淳ゼミに所属。2025年3月卒業予定。

一橋大学社会学部・赤嶺ゼミに所属する浅野沙恵さんは、現在、「フードバンク」をテーマにした卒業論文の制作の真っ最中。ボランティア先のフードバンクにDoleのバナナが提供されていることに気づいたのをきっかけに、赤嶺淳教授を介して「Doleの活動について取材したい」というご連絡をくださいました。

さらに、せっかくの機会だからとDoleからもお二人への取材をお願いし、赤嶺教授のご専門分野のことや、Z世代である浅野さんが感じる食の課題やDoleに期待することなどをお話しいただきました。

食というシンプルな題材からも、世の中のさまざまなことが見えてくる

─赤嶺先生は食という切り口でさまざまな研究をしていらっしゃいますが、その一つが生産地と消費地の間にある問題や課題を考察することだと伺いました。

赤嶺 バナナもそうですが、そこに需要が生まれれば、生産地社会の経済が活性化するというメリットがある一方、自然環境への弊害、政治的な問題などネガティブなことも存在しているんですね。食というシンプルな題材からも、世の中のさまざまなことが見えてきます。

─環境保全、食文化、食の安全、フェアトレードなどにまつわることで、先生はそれを「食にまつわる問題群」と呼んでいらっしゃいますね。

赤嶺 はい。そして、これらについて考えるときは、ローカルに、グローバルに、また多重的・多層的なものの見方をしていくことが大切です。これらの問題は簡単に白黒がつけられるものではありません。たとえば、私が関心を寄せる捕鯨問題でいえば、科学者と動物倫理に携わっている人とでは立ち位置が異なりますから、論点も違えば、出てくる答えもまったく違ってくるでしょう?

学生たちには、ネット空間にあふれる情報を自分なりにしっかりと吟味し、フェイクの情報は排除したり、情報の裏に隠れていることにも考えを及ぼしたりしながら、自分で判断し、自分の考えをもつようにしてもらいたいと思っています。

赤嶺教授・トークカット

─赤嶺先生は博士課程の学位をフィリピン大学大学院で取られたそうですね。ご研究もフィリピン・マレーシア・シンガポールなど東南アジアの国々にまつわることが中心ということですが、これらの地域に関心をもつようになったきっかけは?

赤嶺 大学1年のとき(1986年)に人類学者の鶴見良行先生が書かれた『バナナと日本人』*という本を読んだのがきっかけです。バナナは身近なものでしたが、知らないことばかりで読んだときはびっくりしました。それで、アルバイトをしては春休みや夏休みに格安チケットを手に入れて、フィリピン、タイなど東南アジアの国々に行くようになりました。

*『バナナと日本人 ─フィリピン農園と食卓のあいだ─』鶴見良行(岩波書店)1982年8月初版発行。バナナを題材に、フィリピンのミンダナオ島のバナナ農園から日本で消費されるに至る過程を追いかけて、日本と東南アジアが国際的・経済的にどのようにつながっているかを解説した作品。

─どのような目的意識をもった旅だったのですか?

赤嶺 僕は鶴見先生の追っかけみたいなものだったので、先生の著作に出てくる現場にとにかく「行く」ことが目的でした。

─追体験というか。

赤嶺 そうですね。現地にただ立ってみるだけで、本を読んでよくわからなかったことがわかることもあるんですね。行ってみたらとてもおもしろくて、そうするともっと知りたくなっての繰り返しです。水が合ったというのもあったかと思います。

フードロスへの問題意識をもったことをきっかけに、フードバンクの活動に参加

─では、ここからは浅野さんのお話を聞かせてください。大学では赤嶺先生のゼミに所属していらっしゃいますが、どんな経緯でこのゼミを選んだのですか?

浅野 私は飲食店でアルバイトしているのですが、日々、廃棄される生ゴミの量があ然とするほど多くて、フードロスの問題に関心をもつようになっていたんです。こちらのゼミは、食に関する幅広いテーマを扱っているということで、入ってみようと思いました。

─卒業論文のテーマである「フードバンク」*には、どんなきっかけで興味をもったのですか?

浅野 3年生のときにベーカリーのフードロスについて調査をする機会がありました。そのときに知ったのが、パン屋さんでは非常に多くのフードロスが出ているということだったんです。それも、製造工程よりも販売の段階で多く出るんです。商売なので、夕方になっても店頭にパンがたくさん並んでいることが大事なんですね。

でも、そうするとどうしても余るし、次の日に売るわけにもいかないので廃棄処分になってしまう…。この調査をしている中でフードバンクの存在を知り、卒業論文のテーマにしようと思ったのです。

*フードバンク:企業・団体・個人などが、まだ十分に食べられるのに、余剰していたり、皮に傷があったり、パッケージが破損したりして市場には出せない食品などを提供し、福祉施設や困窮世帯などに無償で配布するボランティア活動のこと。

―ご自身もフードバンクでボランティアをしているそうですが?

浅野 はい。『セカンドハーベスト・ジャパン』*というフードバンクで私はフードパントリーのボランティアに参加させていただきました。また、卒論のためにその他のフードバンクの運営をしている方のお話を伺ったりもしています。

*『セカンドハーベスト・ジャパン』: 2000年、日本初のフードバンクとして設立。食料を必要とする人への配布および公園などでの配食サービス、被災地への食料提供なども行う。

─フードパントリーとは食品を配布する拠点のことですね。現場に立ってみて、どんなことを感じましたか?

浅野 第一に、提供される食品の種類の多さと豊富さにはかなり驚きました。会場にはスーパーのように食品が並んでいて、ものによっては「一人何点まで」と決まっていますが、配布を受ける方は必要なものをレジ袋2つ分ぐらい、パンパンにして持ち帰っていかれます。

配布を受ける方たちには、生活保護を受けるほどの人はほとんどいないそうです。それでもいまの日本では、食料を必要としている人がこんなにたくさんいるのかというのが二つ目に感じたことです。

そもそもフードバンクは希望すれば誰でも配布を受けられるものではなくて、申し込んで、承認された人のみが利用できます。その申込み時点で対象外とされる人も一定数いるのだそうで、そこもまた驚いたことでした。

浅野さん・トークカット

─必要としている人に行き渡っていないということでしょうか。

浅野 そうですね、フードバンクにもけっしてゆとりはなくて、一番の悩みは資金不足だと伺いました。財源は行政からの助成金や寄付金ですが、提供された食品の運搬に費用がかかったりもする中で、ギリギリで運営しているようです。

近年は企業もフードロスをなるべく出さないようにという対策を進めていて余剰が出にくくなり、提供される食品が少なくなっているという傾向もあるそうです。足りない食品はフードバンクが買い足すこともあるのですが、一方では食品配布を望む人は増加していて、需要と供給が合っていないとおっしゃっていましたね。

もう一つの悩みがボランティアの不足です。最近は高齢者の方が多く、若い方はあまりいないという現実もあるようです。

「もったいないバナナ」プロジェクトのいいところは、私たち消費者も気軽に社会貢献できること

─今回、浅野さんがDoleに関心をもってくださったのは、フードバンクにDoleのバナナがあるのに気づいたことがきっかけとのことですが、多くの企業が提供する食品が並んでいる中で、なぜDoleに?

浅野 フードバンクに並ぶ食品には、レトルトカレー、缶詰など消費期限の長いものが多いんですね。その中で生鮮食品であるバナナに目が留まり、このバナナたちはフィリピンからここまでどんなふうにしてやってきたんだろうという疑問が湧いてきまして。野菜もそうですが、やはり一定レベルの衛生管理も必要とされますし、ぜひお話を伺ってみたいと思うようになったんです。

Doleが取り組むCSR活動について熱心に話を聞く浅野さん
Doleが取り組むCSR活動について熱心に話を聞く浅野さん

─なるほど、そういう経緯だったんですね。Doleがフードバンクに提供しているのは検査品のバナナ*ですが、その後、規格外バナナを活用する「もったいないバナナ」プロジェクトにも関心をもっていただいたと聞きました。先ほどの取材でもDoleの担当者から紹介がありましたが、話を聞いてみてどんな印象をもちましたか?

浅野 プロジェクトのことを知ったのは最近なのですが、メリットの一つが、企業として取り組むことの影響力の大きさだと感じます。食品ロス問題に何万という規模で貢献できると思いますし、こうしたプロジェクトがあるおかげで、私たち消費者も商品を買うことを通じて、この言い方が適切かどうかはわかりませんが、手軽に社会貢献することができます。

▼「もったいないバナナ」の詳細はこちら

偶然ですが、私はスターバックスコーヒーの「バナナブリュレフラペチーノ®」が好きでよく飲んでいたのですが、これは「もったいないバナナ」を使用した商品だったんですね。このスターバックスをはじめ、多くの企業を巻き込んだ活動をしていらっしゃることもすごくいいなと思いますし、そこからはDoleという会社のCSRへの姿勢も感じとることができました。

*検査品バナナ:日本国内の港にバナナが到着した際の抜き取り検査用に無作為に抜き出されるバナナ。ヒアリなどの外来生物がまぎれていないかといったことが検査され、合格したものだけが通関することができる。パッケージが破られると箱単位で正規品として販売できなくなるため、フードバンク等に提供している

豊かになったフィリピン、しかし、近年はバナナ農園の台風被害も増加

─ところで、赤嶺先生はフィリピン社会を長くご覧になってきて、どんな変化を感じますか?

赤嶺 そうですね、30年以上見てきましたが、やはり豊かになっていますね。もちろん、バナナ生産だけでこうなったわけではないとは思いますが。町がきれいになっていますし、それから以前は誰もがサンダルを履いていましたが、人々が靴を履くようになった。これは大きな変化だと思いますね。

─フィリピンのバナナ生産における懸念材料などはありますか?

赤嶺 それはやはり気候変動の影響です。そもそも、なぜ、ミンダナオ島にバナナが植えられるようになったかというと、台風が来ない地域だったからなんです。一般的な台風コースからミンダナオ島は外れていたんですね。ところが、最近はけっこうな頻度で来るようになってしまった。バナナは木でなくて草なんですけど、フィリピンの台風はものすごいので、一度来るとみんな倒れてしまうんです。

─台風が一度襲来すると、地域のバナナ産業が根こそぎ壊れてしまうぐらいの?

赤嶺 そうです。日本でも気候がおかしくなって、いつのまにか秋がなくなったと言われていますが、フィリピンでは雨季と乾季のリズムが狂っているという話も聞いています。

気候変動というのは誰の責任と言うことはなかなかできないですよね。言ってみれば、世界の、みんなの責任なのです。これにどう対応していくかということは、先日も国連の議題に上っていましたが、やはりどんなに技術が進んでも、自然の力には敵わないんじゃないかとも思います。日本だって線状降水帯が来たら防ぎようがありませんものね。

Doleには、フィリピンと日本をつなぐ柱になってもらいたいと心から願う

─浅野さん、最後にDoleへの期待・要望のようなものがあればお聞かせいただけますか?

浅野 私はフードロスに関心をもったところからフードバンクに関わるようになったわけですが、まわりを見ても、食に関する問題意識をもっている子はけっこう多いような気がします。

そんな私たちにとって、規格外バナナを活用する「もったいないバナナ」プロジェクトのような活動は気づきをくれるすごくいいきっかけになっていて、そこから意識が変わったり、ボランティアとして行動を起こすことなどにもつながっています。日常生活の「食」に関わっているDoleさんだからこそ、生活者との接点も多いと思うので、これからもぜひ活動を続けていっていただければと思います。

浅野さんと赤嶺教授

─最近は浅野さんのような若い世代のみなさんのSDGsの意識が高く、とても頼もしく感じます。「もったいないフルーツ」プロジェクトについて、赤嶺先生はいかがですか?

赤嶺 僕は50社以上の企業が参画していることがすごいことだと思ったんですね。で、Doleさんにはぜひ、この50社のみなさんをフィリピンにお連れいただきたいと思いました。

フィリピンは子どもの多い国ですが、保育園や学校が足りないとか、まだまだ支援が必要なことがたくさんあります。そうするとNGOの出番なのですが、先ほどのフードバンクの例と同じように、NGOも資金や人手の不足でなかなか大変なんです。その代わりに、多くの企業とフィリピンとのつながりが強まったら、いろいろな可能性が広がるのではないかと思うんです。

やはり現場に行くというのは大きいし、そこで見た何かが次の第一歩になることもあるはずです。ですから、まずはDoleの引率で、企業のみなさんがフィリピンに行ってみることから。Doleにはフィリピンと日本をつなぐ柱になってもらいたいと心から思います。

─なるほど。参画企業の方たちに、バナナの生産される現場を知っていただくこともDoleの使命なのかもしれません。

赤嶺 ええ、ぜひぜひ、実現してください。

※本記事の取材は2024年11月26日に行われました。
※記事の情報は2025年2月25日時点のものです。