筋トレをする人は、なぜバナナを食べるのか? 筋トレ初心者の多くが抱く疑問について、様々な格闘技やボディビルを経験し、現在も筋力を競う「ストロンゲストマン」の選手として自身も筋トレを続けている「超筋肉系管理栄養士」の今井準さんにインタビュー。筋肉と栄養の専門家に、筋トレをする人にとってのバナナが優れた栄養補給食である理由や、いつどのくらいの量のバナナを食べれば良いのかなど、筋トレとバナナの関係について詳しく教えていただきました。
この方にお聞きしました
今井 準(いまい じゅん)さん
超筋肉系管理栄養士。スポーツ栄養学教員。中学3年生の頃から筋トレを始め、プロボクサーとしてもデビュー。引退後、ゴールドジムに入社し、パーソナルトレーナーとして活動しながら、自身もボディビルの大会などに出場する。また、美味しくて身体作りに最適な弁当『BIRUMESHI』を起業し、開発したフードプロダクトを全国のゴールドジムやコンビニエンスストアに導入。現在もトレーニングを続けており、「ストロンゲストマン」の大会にも出場。「ジャパンストロンゲストマン2023」の-80kg級では、3位となった。
目次
バナナは、筋トレに良い栄養素がたくさん入っている
―筋トレをする人がよくバナナを食べているのは、なぜなのでしょうか?
それはバナナに含まれた栄養素のバランスが、筋トレをする人にとても適しているからです。筋トレをする人は、当然、筋肉を増やしたいわけですが、筋肉を増やす上で、糖質をいかに上手に摂るかが重要なんです。
筋トレで糖質と聞くと、エネルギー源という印象を持たれる方は多いと思います。それももちろん正解なのですが、糖質には、もう一つとても重要な役割があって。糖質を摂ると、筋肉を増やすためにとても重要なインスリンというホルモンが分泌されます。インスリンは、筋肉を増やす上では最強のホルモンとも言われていて。端的に言ってしまうと、筋トレをして、糖質を摂ってインスリンを出すと、効率良く筋肉を増やせます。
そして、バナナには、ブドウ糖や果糖など、簡単に消化吸収される糖質が豊富に含まれています。
―糖質と聞くと、筋トレやダイエットの敵のようなイメージもありますが、筋肉を増やすためには必要な栄養素なのですね。
糖質は、摂りすぎると筋肉だけでなく脂肪も蓄積する作用があるので、摂りすぎないことは大前提。後ほど、詳しくお話しますが、ちょうど良い量の糖質を適切なタイミングで摂ることが大切です。そうすることで、筋肉だけを付けることができます。
糖質を摂る手段はいろいろとありますが、大事な条件が、脂肪を含まない糖質源であること。糖と脂肪を一緒に摂ると、太ってしまいますから。筋トレ業界では、バナナ以外にも、脂肪がほとんど含まれていない大福といった和菓子などがよく食べられています。
―その中で、なぜバナナが特に優れているのですか?
持ち運びしやすく、食べやすいといった利便性に加えて、糖質以外にも筋トレに非常に良い栄養素がたくさん入っているからです。
その一つで非常に有名なのがカリウム。筋肉が収縮するために重要なミネラルで、むくみを解消したり、血圧を下げたりといった作用もあります。カリウムが不足すると、筋肉が攣りやすくなってしまいます。特に初心者の方の場合、筋トレをしている最中に筋肉が攣ってしまうこともあって。バナナを食べていると、それが起こりづらくなります。
あと、マグネシウムも筋肉の収縮と弛緩、エネルギー効率に関わる栄養素で、筋トレに非常に有益です。例えば、同じ50gの糖質を摂る際、和菓子で摂る場合とバナナで摂る場合だと、バナナの方がより多くの筋トレに有益な栄養素を摂ることができるんです。
必要な栄養素をサプリメントやスポーツドリンクなどで摂る人もいますけど、それだと個人的にちょっと味気ない気がするんですよね。その点、バナナは美味しくて、値段も手頃。お得感がすごくあります。
―バナナは、筋トレに有益な栄養素を詰め合わせたような果物だということがよく分かりました。
しかも、最初にお話したように、バナナにはブドウ糖や果糖など、様々な種類の糖質が含まれていることも筋トレと非常に相性が良いんです。ブドウ糖は糖質の中で最も細かく、摂ればすぐにエネルギーになって血糖値もグッと上がるのですが、その分、下がりやすいという特性があります。でも、バナナには、果糖などブドウ糖とは吸収速度が異なる糖質も入っているし、食物繊維もちょうど良い量が入っているんです。糖質と一緒に食物繊維を適量摂ると、吸収がゆっくりになる作用があって、エネルギーが長持ちするというメリットもあります。
―バナナを食べることで、瞬間的なエネルギーと、持続的なエネルギーの両方を得られるのですね。
そういうことですね。そういった作用をするように設計されたサプリメントもありますが、自然の食べ物の中では、他になかなか思い当たりません。バナナと筋トレは非常に相性が良いので、多くの筋トレをする人がバナナを食べているんです。
筋トレ×バナナのベストなタイミングと量は?
―では、筋トレをする際、バナナは、どのタイミングでどれくらいの量を食べるのが良いのでしょうか?
筋トレをするどのくらい前に食事をしたのかによっても変わってきます。まず、筋トレをするとき、血管に栄養が行き渡っていない状態…というと分かりづらいかもしれませんね。要は、お腹が空いてペコペコの状態で筋トレをするのは、効率が良くありません。
例えばお昼にご飯を食べて、筋トレをするのが夜の7時か8時ぐらいになる場合は、お腹が空いていると思うので、筋トレ前にバナナを食べた方が良いです。逆に筋トレの3~5時間くらい前にしっかり食事をしている場合は、筋トレの後に食べた方が良いでしょう。そうすると、程良い具合にインスリンが出て、筋肉の成長を促してくれます。
―筋トレをする際、ベストの食事のタイミングは、何時間くらい前なのか教えてください。
5時間くらい前です。三大栄養素(タンパク質、脂質、炭水化物=糖質+食物繊維)が入った通常の食事を腹八分目くらい食べると、5時間も経てば消化されて、胃からはなくなっています。ただ、血液中や筋肉には、まだ栄養が満ちている状態が保たれているので、その状態で筋トレをする。そうすると、(栄養が)空っぽになるので、それを補給するために筋トレ後にバナナを食べる。そういう流れが理想的だと思います。
―筋トレをした後、すぐにバナナを食べても良いのですか?
筋トレの最後のセットが終わって30秒後とかだと、胃などを動かす血液がまだ筋肉に行っている状態。10分~15分くらいは経ってから、食べた方が良いですね。
―食べるバナナの量も教えてください。
バナナ1本で、糖質が25gくらい摂れます。数字だとイメージしづらいかもしれないですが、コンビニおにぎり1個の糖質が40gぐらいなので、大体おにぎりの6割くらいの糖質が摂れるんです。
筋トレの前か後には、体重の80%分をグラムに当てはめるくらいは糖質を摂る必要があります。例えば、体重70kgの場合、80%は56なので大体50gくらい。バナナだったら、2本分、食べてみましょうと指導させてもらうことが多いです。
ただ、栄養に関することは、全部やってみた結果から調整していくもの。ダイエットが目的で筋トレをする人の場合、最初は同じように「とりあえず2本、食べてみましょうか」と指導しますが、体が絞れていかない場合は減らすようアドバイスします。だから、皆さんもご自身でまずはやってみて、その反応を元に調整していってください。
―バナナで糖質を摂る分、ご飯の量を減らした方が良いのでしょうか?
ダイエットが目的の場合は、バナナの糖質分、ご飯を減らすようなイメージの方が良いとは思います。一番良くないのが、お腹が空いた状態で筋トレをして、その後にドカ食いすること。これは、太る原因となります。
バナナと一緒に摂ると筋トレに効果的な食べ物は?
―バナナを食べるとき、一緒に摂ると良いものがあれば教えてください。
筋トレのときに摂るものとしては、プロテインとの相性がすごく良いんです。オススメするものとしては、ほぼプロテイン一択と言っても良いかもしれません。三大栄養素の中で、バナナは糖質で、プロテインはタンパク質。どちらも筋肉を増やすためには大切ですし、タンパク質に糖質が加わることでインスリンが出るので、バナナとプロテインは一緒に摂った方がお互いに効果は高まるんです。
―筋肉を大きくすることが目的ではなく、ダイエットや健康維持目的で筋トレをする人もプロテインは一緒に摂った方が良いのですか?
少しバナナの話からは外れますが、自分の体重をグラムに置き換えたくらいの量のタンパク質、例えば60kgの人なら60gくらいのタンパク質は、健康維持や病気の予防のためにも必要になります。食が細いなどの理由で健康の維持に必要なタンパク質が摂れない方もプロテインを摂ることはオススメです。筋トレをしている人は、当然、必要なタンパク質の量も上がるので、多くの場合、摂った方が良いと思います。
―例えば、バナナをそのまま食べるのか、ミキサーにかけてジュースにして飲むのかによっても、何かの違いはあるのですか?
ミキサーにかけると、組織が壊れるので多少は吸収が早くなると思います。ただ、他の食べ物でもそうですが、よく噛んで食べると咀嚼により消化酵素が分泌されたり、脳の働きを活発にしたりなど良い点もあります。
―最初のお話の繰り返しになるかもしれないのですが、筋トレを頑張っている人なら、バナナを食べていて太ることはないのでしょうか?
もちろん、1日に何十本も食べた場合は分かりません(笑)。しかし、普通に1、2本食べていて太ることはないと思います。そのくらいの量なら、バナナで摂った糖質は、筋トレで消費されるので。私も、20年くらいこういった栄養指導をしていますが、バナナの食べ過ぎで太ったという話は、聞いたことがありません。
トレーニーにとってバナナは、優秀な栄養源
―栄養の話に限らず、筋トレ初心者が意識しておいた方が良いことがあれば、教えてください。
筋肉を発達させる上で、私が最も重要だと思っていることは、運動をするときに、その筋肉を強くしっかりと引き伸ばすこと。もちろん、怪我をしない範囲で可動域のいっぱいまで動かして伸ばしてください。あとは、適切な負荷で運動することも大事です。重すぎると怪我につながりますが、軽すぎると効果が出ません。一般的には、10回ぐらいでできなくなる重さがちょうど良いと言われています。
―それを繰り返していって、10回では疲れなくなったときは、回数を増やすべきですか? それとも負荷を重くするべきですか?
30回、50回と回数を増やすという方法もありますが、やはり筋トレの基本は、重さです。可能ならまた10回でできなくなるくらいの重さに設定し直しましょう。あとは、筋肉が大きくなることは、筋トレ継続のモチベーションにつながるので、最初は(見えやすい)胸とか腕の運動に集中するのも良い方法だと思います。
―最後に、今井さんにとって、バナナは、どのような存在ですか?
生活の中にあって当たり前の存在です。自宅では、バナナスタンドにいつも引っかけてあって。朝、ヨーグルトの中にハサミで切ったバナナを入れて食べるのは、日課になっています。
―今回の取材で、「糖質」に対する印象がガラリと変わりました。ダイエットや身体作りをしている人の「敵」ではなかったのですね。
身体作りにおいて鉄則なのは、いかに適量の糖質を適切なタイミングで摂るかということです。その上で、お世辞抜きにバナナは、優秀な栄養源だと思います。
※記事の情報は2024年11月19日時点の情報です。