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帝国ホテル 東京はDole「もったいないバナナ」のどこに価値を感じたのか? |Dole SDGs Talk

Doleが2021年から取り組む、廃棄予定の規格外バナナを救出し、新しい価値を吹き込む「もったいないバナナ」プロジェクト。実は、日本を代表するラグジュアリーホテル・帝国ホテル 東京でも「もったいないバナナ」を使ったスイーツが誕生しています。その名は「Le Bâton B(ル バトン ビー)」。開発を取り仕切ったのは、2019年に38歳の若さで帝国ホテル 第14代東京料理長となった杉本雄さん。杉本さんと、本プロジェクトを主導する株式会社ドール Dole拡大推進室の成瀬晶子さんが「Le Bâton B」に込めた思いや、これからの食との向き合い方について語り合いました。聞き手は、ジャーナリストの川島蓉子さんです。

杉本雄さん

杉本 雄(すぎもと ゆう)さん

帝国ホテル 東京 第14代料理長。1999年に帝国ホテルに入社し、2004年に退社して渡仏。帰国までの13年間をフランスとイギリスで経験を積み、1835年創業のホテル「ル・ムーリス」では、ヤニック・アレノ氏、アラン・デュカス氏という名料理人のもとでシェフを務め、同ホテルのメインダイニング(3つ星)では責任者の役割を担った。帰国後は再び帝国ホテルに戻り、2019年4月、第14代東京料理長に就任。

成瀬晶子さん

成瀬 晶子(なるせ あきこ)さん

株式会社ドール Dole拡大推進室 シニアマネージャー。東京外国語大学外国語学部を卒業後、2009年に伊藤忠商事入社。2021年からドール社に出向。2021 年「もったいないバナナ」プロジェクトを立ち上げ。2023年「フルーツでスマイルを。」リブランディングプロジェクト、2024年4月よりDole拡大推進室にて、「もったいないフルーツ」プロジェクトの推進や新規事業開拓、新商品開発を担当。

■聞き手

川島蓉子さん

川島 蓉子(かわしま ようこ)さん

ジャーナリスト。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。伊藤忠ファッションシステムに入社し、ファッションという視点から、企業や商品のブランドづくりに携わる。同社取締役、ifs未来研究所所長などを歴任し、2021年に退社。コミュニティー「偏愛百貨店」を立ち上げた。『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞出版)、『虎屋ブランド物語』(東洋経済新報社)など、著書は30冊を超える。

“規格外”から極上のスイーツへ

―杉本さんが、Doleの「もったいないバナナ」と出会ったきっかけは何だったのですか?

杉本:「もったいないバナナ」の存在自体は、以前から存じ上げており、魅力的な活動と感じていました。今回、お声をかけていただき、「おいしく社会を変える」と名付けた『食』を通じた社会貢献につながると思い開発に取り組んだのです。できあがったのが、チョコレートテリーヌの「Le Bâton B(ル バトン ビー)」です。

―おしゃれでモダンな姿かたちに仕上がっていますが、成瀬さん、今回の取り組みをどう捉えていますか?

成瀬:Doleは2021年から、産地で規格外として選別廃棄されていたものや、産地から日本に輸送する過程で、傷ついてしまったものを「もったいないバナナ」と名づけ、活用するプロジェクトを進めてきました。今回、杉本さんに素敵なスイーツに仕立てていただき、光栄に感じています。

▶「もったいないバナナ」について、詳しくはこちら

―今のお話では相思相愛で始まったプロジェクトのようですが、杉本さん、どのようにして「Le Bâton B」の開発を進めたのでしょうか。

杉本:「もったいないバナナ」が持っている、さわやかな酸味や、少し硬い食感を活かそうと考えました。そこにチョコレートを組み合わせ、カカオの風味とバナナの酸味が互いに引き立て合うためにバナナスライスを加えることで、食感の楽しさも味わっていただこうと思いました。

―そういう発想は、自然に浮かんでくるのですか? 

杉本:最初に直感でイメージが湧き、そこから実際に作ってみます。今回も、チョコレートテリーヌが良さそうというアイデアが浮かんだところから、試作にかかりました。

―まずは自ら作られるのですね。次の段階は、どう進めるのですか?

杉本:自分が作ったものをベースに、ペストリーシェフのところに行って相談します。「こうしたらもっと洗練されるのでは」「よりおいしくなるのでは」といったセッションを重ね、一緒に完成形を作っていったのです。

―料理長である杉本さんが、もっとワンマンに進めていくのかと思っていました(笑)。

杉本:帝国ホテルには、ペストリーやベーカリーなどそれぞれの分野にプロフェッショナルなシェフがいて、その人たちの力を最大限に発揮してもらうのが、僕が担う役割のひとつなのです。

帝国ホテル 東京が考える、“持続可能な社会”とは

―成瀬さん、完成形を試食した印象はいかがでした?

成瀬:とろけるようなチョコレートの中に、バナナのさわやかな風味が効いていて、今まで味わったことがないおいしさを感じました。また、グルテンフリーというのも、驚かされたポイントのひとつです。

杉本:本体のテリーヌ部分はもちろん、上下に付けている薄いクッキー生地も小麦粉を使わずに仕上げました。クッキー生地には、グリーンバナナパウダーと米ぬかパウダーを使っています。

成瀬:グリーンバナナパウダーは、“腸活”に有効とされる“レジスタントスターチ”を含んでいて、腸内の善玉菌を増やす効果があります。GI値が低く、グルテンフリーなので小麦粉の代替としても使える。これからの可能性を感じる食材のひとつです。

―杉本さんが、そこまでグルテンフリーにこだわったのはどうしてですか?

杉本:今や、企業や個人が持続可能な社会を作っていくために、さまざまな視点で物事を見るように変わってきています。一方、個人が心身ともに健やかな暮らしを営むことへの意識も高まっています。その両方を反映させたものを、帝国ホテルとして提案したいと考えました。

杉本料理長

―帝国ホテルはSDGsに熱心に取り組んでいるイメージがあります。杉本さんはいつ頃から強く意識されるようになったのですか?

杉本:サステナブルな観点から食材を捉えなくてはならない。そう考えるようになったのは、コロナ禍がきっかけでした。緊急事態宣言が出され、普段はお客様でいっぱいのホテルから、その姿がなくなってしまいました。料理が提供できず、食材の発注も止まってしまうため、生産者の方々が精魂込めて作った食材の行き場がなくなってしまったのです。「当たり前にあるものが、当たり前にあり続けるとは限らない」とショックを受けました。そして、私たちが今まで当たり前と思ってきた物の価値を、もっと伝えていかなければならない。それが、大きな意味で持続可能な社会を築くと考えるようになったのです。

「Le Bâton B」=「思いのバトンを渡していく」

―「もったいないバナナ」にも、今の杉本さんのお話と重なるところがあるように感じますが、いかがでしょう?

成瀬:そもそもバナナは、日本で最も食べられているフルーツです。しかし地球温暖化の影響などもあり、以前ほど簡単に収穫できなくなってきているのです。バナナが当たり前のようにあった世の中が、もしかすると変わってしまうかもしれない。そんな中で、味や品質は全く問題ないのにも関わらず、いわゆる規格外という理由だけで廃棄されてきたバナナの価値を、改めて見直そうというのが「もったいないバナナ」の主旨です。

杉本:その思想は、帝国ホテルの目ざすところと一致しています。

―しかも、ストイックになり過ぎず、おいしさを大事にし、追求されているところも、共通していると感じます。

杉本:社会性とおいしさは両立できるし、帝国ホテルは、そこを目ざしていきたいと考えています。

成瀬:「もったいないバナナ」についても、「もったいないから食べていただく」に留まらず、「おいしいから食べていただく」という大前提を忘れてはならないと考えています。

―「Le Bâton B」という名も、杉本さん自らがお考えになったのですか?

杉本:何か新しい商品を作る時は、最初の発想から、お客様の手元に届いて召し上がっていただくまでの一連のプロセスすべてが大事と捉えているので、まずは自分で考えて作ることにしています。「Le Bâton B」について、Le Batonはフランス語で「バトン」を意味しています。生産者の思い、作り手の思い、食べた方の思い、それぞれを「バトン」でつないでいく。つまり、渡されたバトンに込められた思いを、次の方に渡していってほしいという意図を表現したのです。また、「B」はBananaの「B」を引用したものです。

成瀬:生産地に対する杉本料理長の思いが伝わる素敵なネーミングと、Doleのメンバーも喜んでいます。

杉本:ありがとうございます。でも、こだわりは他にもあるのです(笑)。「バトン」をつなぐにあたっては、当然、ギフトとしての想定もしていて、そこも含めたサイズと形状にこだわりました。食べる時に切り分けていただくサイズももちろんですが、ギフトとしての重量や渡しやすさにも配慮しました。

―徹頭徹尾、こだわられるのですね。

杉本:チョコレートテリーヌを入れているボックスも、私が紙を切って組み立て、ゼロから考えたのです。本体と蓋を分けるのではなく、一枚の紙で無駄を出さず、かつ上質な雰囲気を出すための工夫を凝らしました。

箱について紹介する杉本料理長

これからの時代の「ラグジュアリー」と「食をデザインする」こと

―聞けば聞くほど、「Le Bâton B」が、杉本さんの知恵と労を尽くした贅沢なお菓子であることが伝わってきます。その意味で、いわゆる「ラグジュアリー」の価値自体も、随分と変わってきているように感じます。

杉本:以前のラグジュアリーとは、有名だから、稀少だから、高額だからといった価値観が色濃く反映されていたと思います。例えば、フォアグラ、キャビア、トリュフといったものが、ある意味、象徴的な存在だったのです。しかし昨今、お客様の価値観は少し変わってきたのではないでしょうか。「自分の食べるものを自分でデザインする」ことがラグジュアリー、という感覚が出てきていると感じています。「食をデザインする」と言い換えてもいいのかもしれません。

―「食をデザインする」ですか? 

杉本:たとえば、生産者の方々がどういう思いを込め、どのように作ってきたのかを知ること、あるいは、それを口にすることで、自分の身体や心、少し大げさに言えば環境や地球に何がもたらされるのかといったこと、そこまでを視野に入れ、自分で考えて選ぶ。それがラグジュアリーであるという価値観です。

成瀬:そのご意見、同感です! これからDoleも、そういった意味でのラグジュアリーの追求にますます力を入れていこうと進めているところです。

帝国ホテル“らしさ”は「論語と算盤」に

―お話を伺っていると、日本を代表する帝国ホテルの矜持のようなものを感じますが杉本さんにとっての“帝国らしさ”とは、どんなところにあるのでしょう?

杉本:帝国ホテルらしさということで、私の頭の中にいつもあるのは、初代会長である渋沢栄一の「論語と算盤」です。「論語」とは“道徳”であり、「算盤」とは“経済”を表しています。その双方が良好な循環をすることによって、健全な国家や社会が成り立っていく。そういう思想は、帝国ホテルで働いている従業員が大切に紡いできたものであり、大きな財産と感じています。

―今の時代に符号する“らしさ”ですね。

杉本:いわば「公益の精神」と言えるものであり、自分たちのビジネスだけが成功するのではなく、関わっている人々や、地域と一体となり、それぞれの豊かさを実現していく。そういう精神と理解しています。

聞き手の川島蓉子さん

―帝国ホテルのそういう姿勢そのものが、これからの時代におけるラグジュアリーを象徴しているように思います。

杉本:すべての人に共感していただけるかどうかは分かりませんが、少なくとも私たちは信じて前に進んでいく。そうすることで、少しずつでも賛同の輪が広がっていくようになればありがたいと思っています。

―成瀬さん、Doleはいかがですか?

成瀬:Doleは、フィリピンをはじめとする自社の農場も含め、自分たちで作ったものを、思いも込めて届けていくという姿勢を貫いてきました。「Le Bâton B」についても、Doleというブランドの持っている理念を体現していただいたと、従業員の皆のモチベーションが上がりましたし、良い意味のプライドにもつながったと感じています。

杉本:そう言っていただけるとありがたいです。新しいことに挑戦する、常に前に向かって踏み出していくのは、我々の大事な仕事のひとつと捉えているのです。

成瀬:「B」に続いて、Doleのパイナップルを使った「Le Bâton P」も考えていただけると嬉しいです(笑)。

杉本:はい、いずれ考えてみたいと思っています。

―今日は、両者のコラボレーションをきっかけに、食の大きな潮流やブランドの“らしさ”について、広がりのあるお話をいただきました。どうもありがとうございました。

※記事の情報は2024年10月4日時点のものです。